愛犬があくびをするのを見て、「眠いのかな?」と思いきや、しつけの最中や動物病院でもあくびをする……そんな場面に気づいたことはありませんか。結論からいうと、犬のあくびには「眠い・リラックス」だけでなく、緊張や不安を落ち着かせる『カーミングシグナル』としての意味があると考えられています。さらに、飼い主さんのあくびが「伝染」することもわかってきています。この記事では、犬があくびをする理由を場面ごとにやさしく整理し、眠いのか・ストレスなのかの見分け方、そして生あくびが続くときに気をつけたい体調のサインまでまとめました。
- あくびは「眠い・リラックス」だけでなく、緊張・不安を落ち着かせる「カーミングシグナル」のこともある
- 相手を落ち着かせたり、飼い主さんのあくびが伝染したりすることもある
- 見分けるコツは「どんな場面であくびをしたか」を観察すること
- 生あくびが何度も続く・元気がないときは体調のサインのこともあるので、続くようなら動物病院で相談を
犬があくびをする理由|代表的な4つの意味
犬のあくびには、大きく分けていくつかの意味があると考えられています。同じ「あくび」でも、そのときの状況によって伝えたいことが変わります。人間のあくびは「眠い・退屈」のイメージが強いですが、犬の場合はコミュニケーションの手段としての側面もあるのが特徴です。まずは代表的な4つを見ていきましょう。
①眠い・リラックスしている
もっともわかりやすいのが、人間と同じく眠いときやリラックスしているときのあくびです。寝起きや、日なたでくつろいでいるとき、ソファでのんびりしているときなどに、ゆったりとあくびをするのはこのタイプ。体の力が抜けていて、そのあと伸びをしたり寝転んだりするなら、心地よくリラックスしているサインと考えてよいでしょう。飼い主さんのそばで穏やかにあくびをするのは、安心している証でもあります。
②緊張・不安を落ち着かせたい(カーミングシグナル)
意外に思われるかもしれませんが、緊張や不安、ストレスを感じたときに、自分を落ち着かせようとしてあくびをすることがあります。これは、ノルウェーの家庭犬トレーナー、トゥーリッド・ルーガス氏が提唱した「カーミングシグナル(自分や相手を落ち着かせるための行動)」のひとつとして知られています。しつけの最中、動物病院の待合室、知らない犬や人と会ったとき、抱っこや爪切りを嫌がるときなど、「眠くないはずの場面」でのあくびは、このサインの可能性があります。「退屈しているのかな」と誤解されがちですが、実はその子が少し気持ちを落ち着けようとしているのかもしれません。
③相手を落ち着かせようとしている
カーミングシグナルには、自分だけでなく「相手を落ち着かせる」意味もあると考えられています。飼い主さんが強い口調で叱っているときや、犬同士がにらみ合っているときなどに、「落ち着いて」「敵意はないよ」と伝えるためにあくびをすることがあります。人が思わず出したあくびとは違い、その場の空気をやわらげようとする、犬なりのコミュニケーションと考えられています。もし叱っている最中に愛犬があくびをしたら、「反省していない」のではなく、緊張をほぐそうとしているサインかもしれません。
④飼い主のあくびが伝染した
人があくびをすると、犬もつられてあくびをする「あくびの伝染(contagious yawning)」が起こることがあります。東京大学のテレサ・ロメロ氏らの研究チームが2013年に学術誌『PLOS ONE』へ発表した研究では、犬は見知らぬ人よりも飼い主さんのあくびに対してより多くあくびを返し、そのときの心拍数に差はなかったことが報告されています。心拍数が上がらないことからストレス反応ではないと考えられ、あくびの伝染が愛着や共感の一種と関連している可能性が示されました。愛犬があなたのあくびにつられるのは、深い信頼関係のあらわれなのかもしれません。反対に、あまりつられないからといって、愛情が薄いわけではないので心配はいりません。
眠いあくび?ストレスのあくび?見分け方
あくびの意味を見分けるいちばんのコツは、「どんな場面であくびをしたか」を観察することです。下の表を目安に、そのときの状況とあわせて読み取ってみてください。あくまで傾向であり、個体差もあるため、ふだんの様子と比べることが大切です。
| あくびをする場面 | 考えられる気持ち |
|---|---|
| 寝起き・くつろいでいるとき | 眠い・リラックス |
| しつけ中・叱られたとき | 緊張・落ち着きたい(カーミング) |
| 動物病院・知らない場所 | 不安・ストレス |
| 飼い主があくびをした直後 | あくびの伝染(共感) |
| 犬同士がにらみ合ったとき | 相手を落ち着かせたい |
緊張やストレスからくるあくびのときは、あくびだけでなく、鼻や口のまわりをなめる・視線をそらす・体をブルブルッと震わせる・耳を後ろに倒すといった、ほかのカーミングシグナルが一緒に見られることがよくあります。これらのサインが重なっているときは、その子が「ちょっと苦手だな」と感じている場面かもしれません。無理をさせず、落ち着ける環境を整えてあげましょう。犬が苦手な音の場面でもこうしたサインが出やすいので、こちらの記事もあわせてご覧ください。

- 鼻や口のまわりをペロッとなめる
- ふいっと視線をそらす・顔を背ける
- 濡れていないのに体をブルブルッと震わせる
- 耳を後ろに倒す・しっぽが下がる
撫でているときにあくびをするのはなぜ?
撫でているときにあくびをするのは、気持ちよくてリラックスしていることが多いと考えられます。とろんとした表情で、体の力が抜けているなら、心地よさからくるあくびでしょう。一方で、しつこく撫でられて「そろそろやめてほしいな」という控えめなサインとしてあくびが出ることもあります。撫でながらあくびが出て、そのあと体を離そうとする・視線をそらすようなら、少し休憩をとってあげるとよいでしょう。愛犬の表情やしっぽの動きとあわせて、気持ちを読み取ってみてください。犬にも「撫でられて心地よい場所」と「あまり触られたくない場所」があるので、その子の反応を見ながら加減するのがおすすめです。
同じ「撫でているときのあくび」でも、うっとりしているのか、少し我慢しているのかは、そのあとの行動で見分けられます。あくびのあとも体をあずけてくつろいでいるなら心地よさのサイン、あくびのあとに立ち上がったり別の場所へ移動したりするなら「もういいよ」の合図と考えられます。犬の気持ちを尊重して、心地よいスキンシップの時間にしてあげましょう。

あくびが多い・生あくびが続くときに気をつけたいこと
あくびの多くは眠気やカーミングシグナルによる自然なものですが、眠くもストレス場面でもないのに、生あくびを何度も繰り返すときは、体調の変化が隠れていることもあります。あくびが増える生理的な背景には諸説ありますが、眠気やストレスで説明できないのに生あくびが続くときは、体調のサインが隠れていることもあります。ふだんのあくびの回数を大まかに把握しておくと、「いつもより明らかに多い」という変化に気づきやすくなります。
- 生あくびを短時間に何度も繰り返す/急に増えた
- 元気がない・食欲がない・ぐったりしている
- 歯ぐきや舌の色が白っぽい、呼吸が荒い
- よだれが多い・口を気にする・ふらつく
こうした様子があくびと一緒に見られるときは、貧血や低血糖、呼吸器・心臓のトラブル、口の中の痛みなど、体調に関わる原因が隠れていることもあります。ただし、あくびが多い=病気と決めつける必要はありません。ここで挙げたのはあくまで一般的な目安で、診断ではありません。「いつもと違うあくびが続く」「ほかの元気のなさも重なる」ときは、早めに動物病院で相談すると安心です。受診の際は、いつごろから・どんな場面で増えたかをメモしておくと、獣医師に伝わりやすくなります。
子犬・シニア犬であくびの意味は違う?
あくびの意味は、年齢や性格によっても少し変わります。子犬は、慣れない環境や初めての経験が多く、緊張からくるカーミングシグナルのあくびが見られやすい時期です。新しい場所やしつけの練習中にあくびが出たら、無理をさせず、少しずつ慣らしてあげましょう。シニア犬は、生活リズムが安定してリラックスからくるあくびが増える一方、体調の変化があくびにあらわれることもあります。年齢を重ねた子が急にあくびを繰り返すようになったら、ふだんの元気や食欲もあわせて見守ってあげてください。いずれの世代も、いちばんの手がかりは「その子のいつもの様子」との比較です。
また、性格が慎重な子や、もともと緊張しやすい子は、日常のちょっとした場面でもカーミングシグナルのあくびが出やすい傾向があります。逆に、おおらかな性格の子はあまりあくびを見せないこともあります。あくびの多い・少ないは個性でもあるので、他の子と比べて心配する必要はありません。大切なのは、その子にとっての「いつものあくびの様子」を知っておくこと。ふだんを知っていれば、「今日はやけにあくびが多いな」「眠くもないのにあくびばかりだな」といった変化に、いち早く気づけるようになります。
犬のあくびにまつわるよくある誤解
犬のあくびは、人の感覚で見ると誤解されやすい行動でもあります。ここでは、飼い主さんが勘違いしやすいポイントを整理しておきましょう。まず、しつけ中のあくびを「退屈している」「反抗している」と受け取るのは誤解のことが多いです。前述のとおり、これは緊張を落ち着かせるカーミングシグナルの可能性が高く、その子なりに気持ちを整えようとしているサインです。強く叱り続けると、かえって不安が強まってしまうことがあります。
また、「あくびをするのは眠いからだけ」と決めつけるのも避けたいところ。眠くない場面でのあくびには、緊張・不安・相手へのなだめ・伝染など、いろいろな意味があります。あくび単体で判断するのではなく、しっぽや耳、視線、その場の状況といった“全身のサイン”をあわせて読むことが、気持ちを正しく理解するコツです。愛犬のあくびに気づいたら、「いま、この子はどんな場面にいるかな?」と一歩引いて見てあげると、誤解が減っていきます。
もうひとつ覚えておきたいのが、あくびを無理にやめさせようとしないことです。カーミングシグナルのあくびは、その子が自分の気持ちを整えるための大切な行動です。あくびをするたびに「どうしたの」と構いすぎたり、逆に叱ったりすると、犬は気持ちの整え方を出しづらくなってしまいます。緊張している場面でのあくびに気づいたら、そっと距離をとる・声のトーンをやわらげる・苦手な刺激から離すなど、その子が落ち着ける手助けをしてあげるのが理想です。あくびは「叱るサイン」ではなく「気持ちを教えてくれるサイン」と受け止めましょう。
- いまどんな場面か(くつろぎ/しつけ中/来客中など)
- ほかに緊張のサイン(視線そらし・体をなめる等)が出ていないか
- あくびの回数がいつもより多くないか
- 元気・食欲などにほかの変化が重なっていないか
まとめ|あくびは「場面」で意味が変わる
犬のあくびは、眠いときやリラックスしているときだけでなく、緊張や不安を落ち着かせる「カーミングシグナル」や、相手への気づかい、飼い主さんへの共感(あくびの伝染)など、さまざまな気持ちがこめられています。見分けのポイントは「どんな場面であくびをしたか」。ほかのサインとあわせて読み取り、苦手そうな場面では無理をさせないであげましょう。そして、生あくびが何度も続いて元気のなさも重なるときは、体調のサインのこともあるので、気になるときは動物病院で相談してくださいね。
リラックスのサイン「お腹を見せる」しぐさの意味も、あわせてこちらで解説しています。

あくびと同じく、じっと見つめてくる視線も気持ちを伝えるサインです。こちらで解説しています。

よくある質問
- Q犬のあくびは眠いだけではないのですか?
- A
はい、眠いときのあくびだけではありません。緊張や不安を落ち着かせる「カーミングシグナル」としてあくびをすることがあると考えられています。しつけ中や動物病院など、眠くないはずの場面でのあくびは、その子が少し緊張しているサインかもしれません。どんな場面であくびをしたかを観察すると、意味を読み取りやすくなります。
- Q飼い主のあくびが犬にうつるって本当ですか?
- A
あくびの「伝染」は犬でも起こることが報告されています。東京大学の研究チームが2013年に『PLOS ONE』へ発表した研究では、犬は見知らぬ人より飼い主さんのあくびに対してより多くあくびを返し、心拍数に差はなかったとされています。ストレス反応ではなく、愛着や共感の一種と関連している可能性が示されました。愛犬があなたのあくびにつられるのは、信頼のあらわれかもしれません。
- Q生あくびが多いのは病気のサインですか?
- A
多くのあくびは眠気やカーミングシグナルによる自然なものですが、眠くもストレス場面でもないのに生あくびを何度も繰り返し、元気や食欲の低下など他の変化も重なるときは注意が必要です。貧血や低血糖など体調に関わる原因が隠れていることもあります。あくびが多い=病気と決めつける必要はありませんが、いつもと違う様子が続くときは動物病院で相談してください。ここでの内容は一般的な目安で、診断ではありません。
- Q叱っているときに犬があくびをするのはなぜですか?
- A
退屈しているのではなく、緊張を落ち着かせたい、あるいは「落ち着いて」と相手をなだめたい、というカーミングシグナルの可能性があります。強く叱り続けると犬の不安が増すことがあるので、感情的にならず落ち着いたトーンで接し、してほしい行動を穏やかに伝えるとよいでしょう。
