妊娠が分かってから、愛犬がやたらとそばを離れなくなった。おなかに顔を近づけてくる。逆に、少し距離を置くようになった。
犬は本当に、飼い主の妊娠に気づいているのでしょうか。この記事では、分かっていることと分かっていないことを分けて整理します。
- 犬が妊娠そのものを嗅ぎ分けるという研究はまだないこと
- ただし人のストレス状態のにおいは高い精度で見分けたという実験があること
- そばを離れない、距離を置く、うなる。行動別の受け止め方
- トキソプラズマは犬の話ではないこと
- 出産・入院までに整えておきたい犬まわりの準備
犬は飼い主の妊娠が分かる?まず研究で言えること
妊娠を嗅ぎ分けたという研究は見つからない
先に正直なところを書きます。犬が人の妊娠そのものを嗅ぎ分けた、という研究は見当たりません。
ですから、犬は妊娠を知っていると言い切ることはできません。ただ、まったく根拠がない話でもありません。
人のストレスのにおいは93.75%の精度で見分けられた
2022年にPLOS ONEで公開された研究があります。犬4頭に、人の平常時と、ストレスを感じているときの呼気と汗のサンプルを嗅ぎ分けさせた実験です。
参加した人は36名、試行は720回。犬の正答率は90.00%から96.88%、全体で93.75%でした。偶然では説明できない差です。
示しているのは、人の体から出るにおいが状態によって変わり、犬がその違いを取れるということです。妊娠を判別できるという話ではありません。参加した犬は4頭と少数です。
においだけでなく、暮らしの変化も手がかりになる
妊娠中は、散歩の距離や時間帯、家で過ごす姿勢、家具の配置が変わっていきます。犬にとっては、においよりこちらのほうが分かりやすい変化かもしれません。
つまり犬が反応しているのは、妊娠という出来事そのものではなく、それにともなって変わった飼い主と家の様子だと考えるほうが自然です。
行動別の受け止め方
そばを離れない・おなかに寄り添う
もっとも多く語られる変化です。横になっている時間が増えれば、犬が寄り添える時間も増えます。単純にそれだけのこともあります。
おなかに乗ろうとするときは、体重のかかり方だけ気をつけます。乗せない代わりに、隣に座らせて撫でる形に置き換えると落ち着く犬もいます。
急にそっけない・距離を置く
寄ってこなくなると不安になりますが、嫌われたわけではありません。いつもと違う状態の相手には、近づかずに様子を見る犬がいます。
追いかけて構いにいくより、犬のほうから来たときに応じるほうが早く戻ります。犬が自分で入れる静かな居場所を1つ用意しておきます。
飛びつく・興奮しやすくなった
これだけは早めに手を打ちます。おなかが大きくなると重心が変わり、飛びつきや急な引っ張りで転びやすくなるためです。
帰宅時に興奮させない、リードを短く持てるようにする、玄関で座って待たせる。産後に赤ちゃんを抱いて出入りする場面でも、そのまま役に立ちます。
うなる・歯を当てる
これは様子見にしないでください。妊娠中に始まったのか以前からあるのかを整理して、かかりつけの動物病院か行動診療の専門医に相談します。
⚠️ 獣医師・専門家へのご相談のお願い
犬の健康・行動に関することは、かかりつけの獣医師にご相談ください。妊娠中のご自身の健康については、かかりつけの産婦人科医にご相談ください。
トキソプラズマは犬の話ではない
妊娠が分かると必ず名前が挙がるのがトキソプラズマです。犬を飼っている方から、手放したほうがいいのかという声も聞きます。
東京都動物愛護相談センターは、終宿主を猫としたうえで「犬や他の動物にも感染するが、人への感染源として重要なものは猫」と記載しています。
感染経路として挙げられているのは、感染した猫のフンの中のオーシストが口に入ること、そして加熱不完全な感染した豚肉を食べることです。
厚生労働省は動物由来感染症の予防として、過度のふれあいは避けること、触れあった後の手洗いを確実に行うこと、咬まれたりひっ掻かれたりしないよう注意することを挙げています。
咬傷から感染しうるカプノサイトファーガについて、同省は犬の保菌率をカニモルサスで74〜82%、サイノデグミで86〜98%としています。特別な犬の話ではありません。
口移しやキス、顔を舐めさせることを控える。散歩のあとに手を洗う。妊娠中に増やす対策は、この程度で足ります。
出産・入院までにやっておきたい5つ
1. 入院中のお世話を決めておく
誰が、どこで、何日みるのか。家族が家で世話をするのか、預けるのか。予定日より早まることもあるので、妊娠後期に入る前に決めておくと慌てません。
預ける場合は、先に一度短く預けて慣らします。フード、量、投薬、かかりつけの連絡先は紙に書いて渡します。
2. 赤ちゃんスペースに先に慣らす
ベビーベッドやベビー用品は、赤ちゃんが来る前に置いてしまいます。物が増えてから急に立ち入り禁止にすると、犬にとっては理由の分からない変化になります。
入っていい場所とだめな場所を、先に体で覚えてもらいます。サークルやゲートを使うなら、この時期から設置しておきます。

3. 散歩の担当を先に交代しておく
産後しばらくは散歩に出られません。出産後に急に散歩する人が変わると、犬にとっては負担が重なります。
妊娠中から少しずつ、家族が散歩に行く日を作っておきます。引っ張りやすい犬なら、その練習も一緒に済ませます。
4. 犬が休める場所を確保する
赤ちゃんが来ると、家の中に泣き声と人の出入りが増えます。犬が自分で避難できる、静かで扉のある場所を1つ決めておきます。
5. 健康面を先に片づけておく
ワクチン、フィラリア、ノミダニ、爪切り、健康診断。産後は動物病院に行く時間が取りにくくなります。妊娠中に済ませておくと後が楽です。
よくある質問
- Q犬は飼い主の妊娠が分かるのですか?
- A
犬が妊娠そのものを嗅ぎ分けたという研究は見当たりません。ただ、人の平常時とストレス時のにおいを犬が93.75%の精度で見分けた実験はあります。においや暮らしの変化を感じ取っている可能性はあります。
- Q妊娠中は犬を手放したほうがいいですか?
- A
トキソプラズマについて東京都動物愛護相談センターは、人への感染源として重要なものは猫と記載しています。犬と暮らすうえでは、手洗いと、咬まれたり舐められたりしない配慮が基本です。判断に迷う点は産婦人科医にご相談ください。
- Q犬が急に寄ってこなくなりました。嫌われたのでしょうか?
- A
いつもと違う状態の相手に対して、近づかず様子を見る犬がいます。追いかけて構うより、犬から来たときに応じるほうが戻りやすくなります。食欲や排泄に変化があるときは動物病院で相談してください。
- Qおなかに乗ってくるのは止めるべきですか?
- A
体重のかかり方には気をつけたほうが安心です。乗せない代わりに隣に座らせて撫でる形に置き換えると、落ち着く犬もいます。体調や経過によって判断は変わるので、心配なときは産婦人科医にご相談ください。
まとめ
犬が妊娠を嗅ぎ分けるという証拠はまだありません。分かっているのは、人のにおいは状態によって変わり、犬はその違いを取れるということです。
愛犬の態度が変わったなら、それは飼い主の変化に反応しているサインです。飛びつきと転倒にだけ早めに手を打ち、あとは出産までの準備を1つずつ進めていきましょう。


参考: 東京都動物愛護相談センター「トキソプラズマ症」/厚生労働省「カプノサイトファーガ感染症に関するQ&A」(平成30年9月27日更新)。
Wilson C ほか. Dogs can discriminate between human baseline and psychological stress condition odours. PLOS ONE. 2022年9月28日。
いずれも2026年8月18日に確認しました。
