抱き上げようとすると体をよじる。腕の中で固まる。前は平気だったのに、最近は逃げてしまう。
わがままになったのでしょうか。それとも、どこか痛いのでしょうか。切り分け方から整理します。
- 嫌がること自体は、しつけの失敗ではないこと
- 急に嫌がりだしたときは、痛みを先に疑う理由
- 唸ったら抱っこをやめる、を繰り返すと悪化する仕組み
- 嫌がるサインの順番と、無理をしない慣らし方
- 動物病院に相談したほうがよい様子
嫌がるのは、わがままではない
抱っこは犬にとって自然な姿勢ではない
足が床から離れ、自分では動けなくなる。犬にとって抱っこは、そういう状態です。
好きな犬もいれば、苦手な犬もいます。苦手なほうが特別なわけではありません。
ただ、通院や災害時など、どうしても抱えて運ぶ場面はあります。だから慣らしておく意味はあります。
嫌がるサインは、段階を追って出る
いきなり噛むわけではありません。その前に、もっと静かな合図が出ています。
早い段階で気づいて手を止められると、犬は強い合図を出す必要がなくなります。
急に嫌がりだしたときは、痛みを先に疑う
これまで平気だった犬が、ある時期から嫌がるようになった。ここは行動の問題として片づけないでください。
東京大学附属動物医療センターの荒田明香氏による分類表では、攻撃行動の動機づけの一つとして「疼痛性攻撃行動」が挙げられています。
鑑別診断についても「二次的に攻撃行動が生じる可能性のある中枢神経系疾患,内分泌疾患,代謝疾患,感覚器異常,その他痛みを伴う疾患との鑑別が必要である」と記載されています。
抱っこは体を持ち上げ、胸やお腹、背中に手が触れる動作です。痛いところがあれば、真っ先に出ます。
嫌がり方に偏りがないか見る
持ち上げ方を変えると平気なのか。特定の側だけ嫌がるのか。触れた瞬間なのか、持ち上げた後なのか。
偏りがあるほど、体の問題である可能性が上がります。どの動作で出るかをメモしておくと診察で役立ちます。
階段や段差をためらう、寝起きに動きが硬い、抱っこ以外でも触られるのを避ける。こうした変化が同時期にあれば、なおさらです。
⚠️ 獣医師・専門家へのご相談のお願い
犬の健康・行動に関することは、かかりつけの獣医師にご相談ください。この記事は診断や治療の判断に代わるものではありません。
唸ったらやめる、を続けると悪くなる
ここが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。
唸られたので手を引く。犬から見ると、唸ったら嫌なことが終わった、という結果になります。
同じ資料は攻撃行動について、「犬が攻撃結果を学習することによって攻撃行動は悪化する(不快刺激の消失による負の強化が起こる)」と説明しています。
そのうえで「問題行動のなかでも獣医師が早期に介入すべきものである」とされています。様子を見て待つ種類のものではありません。
とはいえ、唸っている犬を無理に抱き続けるのは危険です。噛まれますし、恐怖も強まります。
その場は安全に離れてかまいません。大事なのは、そこで終わらせず相談に進むことです。

無理をしない慣らし方
唸りや噛みがない段階なら、家庭でできることがあります。順番を飛ばさないのがこつです。
1. 抱っこの前で止める
まずは持ち上げません。体に手を添えて、すぐ離す。それだけです。嫌がる前に終わらせます。
2. 触れたら良いことが起きる形にする
手を添えたらおやつを1つ。持ち上げたら下ろしておやつ。抱っこの合図と良いことを結びつけていきます。
おやつは触る前ではなく、触った後に出します。順番が逆になると、警戒の合図になってしまいます。
3. 時間ではなく回数を増やす
長く抱くより、短い成功を数多く積むほうが進みます。1回2秒でもかまいません。
嫌がる前に自分から下ろす。この主導権をこちらが持ち続けるのが、遠回りに見えて確実です。
やってはいけないこと
叱らないでください。同資料は環境調節として、家庭内での明確なルール作りとあわせて、体罰や叱責の禁止を挙げています。
嫌がっている犬を叱ると、抱っこそのものが、もっと避けたいものになります。
- 唸る、歯を当てる、噛む
- これまで平気だったのに、急に嫌がるようになった
- 特定の場所や側だけを嫌がる
- 抱っこ以外でも、触られるのを避けるようになった
- 段差をためらう、寝起きの動きが硬いなど体の変化がある
どの動作で嫌がるかを動画に撮っておくと、診察で正確に伝わります。言葉より早いことがあります。
よくある質問
- Q抱っこを嫌がるのは、なつかれていないからですか?
- A
関係の良し悪しとは別の話です。足が床から離れる状態が苦手な犬はいます。そばで寝る、ついてくるといった行動があるなら、距離が遠いわけではありません。
- Q急に嫌がるようになりました。年齢のせいでしょうか?
- A
年齢で片づけないほうが安全です。痛みを伴う疾患が背景にあることは、獣医行動学の資料でも鑑別の対象として挙げられています。急な変化なら受診をおすすめします。
- Q唸られたら、抱っこをやめてよいのですか?
- A
その場は安全のために離れてください。ただし攻撃行動は学習によって悪化するとされ、早期に獣医師が介入すべきものとされています。やめて終わりにせず、相談に進んでください。
- Q家族のうち特定の人だけ嫌がります
- A
持ち上げ方や声の大きさ、動きの速さが人によって違うことがあります。まずは同じ手順に揃えてみてください。過去に痛い思いをした場面と結びついていることもあります。
まとめ
抱っこが苦手な犬はいます。それ自体はしつけの失敗ではありません。
ただし、急に嫌がるようになったときと、唸る・噛むが出ているときは別です。痛みの可能性を先に確かめ、早めに動物病院で相談してください。


参考: 荒田明香(東京大学附属動物医療センター)「犬における問題行動」動物臨床医学 26巻3号 98-100頁、2017年。2026年8月19日に確認。
