キッチンに立てば足元にいる。トイレのドアの前で待っている。ソファに座れば、また隣にやってくる。
かわいい反面、少し困ることもあります。この行動はどこまでが普通で、どこからが気にしたほうがよいのでしょうか。
- ついて回ること自体は、異常な行動ではないこと
- 甘えん坊な犬種だから、という説明は根拠が薄いこと
- 家の中・トイレ・ついてくるのに逃げる。場面別の読み方
- 急についてくるようになったときに疑うこと
- 困っているときの向き合い方と、動物病院に相談する目安
ついて回るのは普通のこと?
行動そのものは異常ではない
まず前提から。犬が飼い主について回ること自体は、異常な行動ではありません。群れで動く動物として、自然な部分があります。
東京大学附属動物医療センターの荒田明香氏は、問題行動を「人間社会と協調できない行動」あるいは「人間(飼い主あるいは動物と関わる人達)が問題と感じる行動」と定義しています。
そのうえで、そこには「その動物の習性として正常な場合も,正常範囲から逸脱した異常行動も含まれる」と説明されています。
つまり分かれ目は、行動があるかないかではありません。飼い主が困っているか、犬自身がつらそうかのほうです。
甘えん坊な犬種だから、とは言い切れない
よく聞く説明ですが、同じ資料では不安に関連する問題行動について、興味深い記述があります。
恐怖・不安に起因する問題行動の関連因子として、「生得的因子では,犬種や血統,性別による明らかな違いは報告されていない」と記載されています。
代わりに挙げられているのは、飼養管理、社会化不足、こわい経験、そして飼い主との関係です。生まれつきより、これまでの過ごし方のほうが効いてくるということになります。
場面別に読む
家の中でずっとついてくる
もっとも多い形です。次に何が起きるかを知りたい、という理由が大きいと考えられます。
飼い主が立ち上がると、散歩やごはんが始まることがある。犬はその関連を覚えています。動きに反応しているだけのことも多いのです。
留守番のあいだは落ち着いて眠れているなら、ひとまず心配はいりません。
トイレやお風呂までついてくる
閉まったドアの前で待つ行動です。姿が見えなくなることが、犬にとっては一区切りに感じられます。
ドアの前で静かに待てるなら問題ありません。ただし、掘る、吠え続ける、ドアを噛むといった様子があるなら、後半の受診の目安を見てください。
ついてくるのに、触ろうとすると離れる
矛盾しているようですが、犬の中では両立します。そばにいたい気持ちと、触られたくない気持ちは別のものだからです。
近くにいることを選んでいる時点で、関係は悪くありません。触る回数を減らすと、かえって距離が近づくことがあります。
急についてくるようになった
ここだけは分けて考えます。これまで平気だった犬が、急に離れなくなったときです。
先の資料では、恐怖や不安を二次的に増やす可能性があるものとして、中枢神経系や内分泌、代謝の疾患、感覚器の異常、痛みを伴う身体疾患との鑑別が必要だとされています。
さらに「認知機能低下に伴う不安傾向の増加にも注意すべきである」とも書かれています。シニア期に入ってからの変化は、年齢のせいと片づけないほうが安全です。
⚠️ 獣医師・専門家へのご相談のお願い
犬の健康・行動に関することは、かかりつけの獣医師にご相談ください。この記事は診断や治療の判断に代わるものではありません。
困っているときの向き合い方
叱って離れさせようとしない
正直なところ、常に足元にいられると危ないし、疲れます。それでも、叱るのは遠回りになります。
先の資料は、不安に関連する問題行動の環境調節として、家庭内での明確なルール作りとあわせて、体罰や叱責の禁止を挙げています。
不安が理由でついてきている犬を叱ると、不安そのものは増えます。行動だけが抑えられて、原因は残ります。
安心できる場所を用意する
同じ資料が挙げているのが、安心できる場所の提供です。追い出す場所ではなく、犬が自分から入りたくなる場所にします。

かまう時間を、こちらから決める
ついてきたから応じる、を繰り返すと、ついてくれば反応がもらえると学習します。悪いことではありませんが、頻度は上がります。
散歩の前、食事の後など、こちらのタイミングで声をかける時間を決めます。決めた時間はしっかり向き合うほうが、結果として落ち着きます。
分離不安との見分け方と、相談の目安
ついて回る犬のすべてが分離不安なわけではありません。分離不安は、恐怖・不安に起因する問題行動の一つとして分類されています。
見るべきは、そばにいるときではなく、ひとりになったときの様子です。
- 留守番中に吠え続ける、遠吠えする
- ドアや壁、サッシを掘る・噛む・壊す
- 普段はできているのに、留守番のときだけ排泄を失敗する
- 飼い主が出かける支度を始めた段階で落ち着かなくなる
- 食欲や歩き方など、行動以外にも変化がある
先の資料は、問題行動の中では関心を求める行動との鑑別が重要だとしています。専門家でも切り分けが必要な部分なので、自己判断で決めなくて大丈夫です。
相談前に書いておくと話が早いもの
同資料では、情報を十分に集めるために、獣医動物行動研究会の統一質問用紙の利用が勧められています。犬用の用紙が学会サイトで公開されています。
いつ、どこで、どんなときに起きるか。そのときの犬の様子と、自分がどう対応したか。書き出しておくと診察がスムーズです。
動画があるとさらに伝わります。留守番中の様子をスマートフォンで撮っておくと、言葉より正確です。
よくある質問
- Q犬がついてくるのは寂しいからですか?
- A
寂しさだけとは限りません。次に何が起きるかを知りたい、涼しい場所を選んでいる、といった理由もあります。判断の材料になるのは、ひとりになったときに落ち着いていられるかどうかです。
- Q正直うざいと感じてしまいます。やめさせていいですか?
- A
足元にいられると危ないので、距離を取る練習は必要です。ただし叱って離れさせる方法は勧められていません。安心できる居場所を用意し、かまう時間を飼い主側から決めるほうが近道です。
- Q甘やかしすぎたせいでしょうか?
- A
ついて回ること自体は正常な行動の範囲にも含まれます。原因を一つに決めるより、留守番中の様子を確認するほうが役に立ちます。困りごとが続くなら動物病院で相談してください。
- Qシニアになってから離れなくなりました。年齢のせいですか?
- A
年齢だけで片づけないほうが安全です。認知機能の低下にともなう不安の増加や、痛みを伴う身体の不調が背景にあることもあるとされています。急な変化なら受診をおすすめします。
まとめ
ついて回ること自体は、正常な行動の範囲に入ります。犬種や性別で決まるという根拠も、はっきりとは報告されていません。
見るべきなのは、ひとりになったときの様子です。静かに待てているなら、いまのままで大丈夫。荒れているなら、質問用紙を持って動物病院へ行きましょう。


参考: 荒田明香(東京大学附属動物医療センター)「犬における問題行動」動物臨床医学 26巻3号 98-100頁、2017年。2026年8月19日に確認。
