抱っこしようとすると、するりと逃げたり暴れたり――「うちの子は抱っこが苦手みたい」と感じている飼い主さんは多いものです。結論からいうと、猫が抱っこを嫌がるのは体を拘束されて自由に動けなくなるのが苦手という本能によるところが大きく、けっして嫌われているわけではありません。過去の経験や抱き方が合っていないことが原因のこともあります。この記事では、猫が抱っこを嫌がる理由と、少しずつ慣らしていくコツ、通院など「どうしても抱っこが必要な場面」への備えを、獣医師監修メディアをもとにやさしく解説します。
- 拘束されて自由に動けなくなるのが苦手という本能が大きい
- 過去のいやな経験や抱き方が合っていないことも原因になる
- 嫌がる=嫌われている、ではない(甘えてくるのに抱っこは苦手な子も多い)
- 慣らすコツは短時間から・ごほうび・いやがる前にやめる
- 通院・災害など必要な場面のために少しだけ練習しておくと安心
猫が抱っこを嫌がる理由
抱っこを嫌がるのにはいくつかの理由があると考えられています。「なつかないから」ではなく、猫の本能や過去の経験が関係していることがほとんどです。
①拘束されるのが苦手という本能
もっとも大きな理由が、体を拘束されて自由に動けなくなることへの苦手意識です。猫は警戒心が強く、危険を察知したらすぐ身を隠す習性があります。抱っこされると自分の動きが制限され、いざというときに逃げられなくなるため、不安やストレスを感じやすいと考えられています。もともと単独で狩りをしてきた動物で、群れでベタベタ過ごす習性が薄いことも背景にあります。
②過去にいやな経験がある
以前、抱っこされたときに痛い思いをした・怖い思いをした・強いストレスを感じた経験があると、それがきっかけで抱っこを避けるようになることがあります。たとえば、抱っこのあとに苦手な通院や爪切りが続いた、落とされそうになった、といった記憶です。「抱っこ=いやなことが起きる」と学習してしまっているのかもしれません。
③抱き方が合っていない
抱き方が不安定だと、猫は落ち着かず嫌がります。足が宙ぶらりんになっていたり、体をぎゅっと締めつけたりすると、不安が強くなります。猫は足場がしっかりしていると安心しやすいので、体を支えて安定させる抱き方が大切です(後述します)。
④その日の気分や体調
ふだんは平気でも、眠いとき、遊びに夢中なとき、暑いとき、どこか痛いときなどは抱っこを嫌がることがあります。急に抱っこを嫌がるようになり、触ると痛がるそぶりがあるときは、体調の変化がかくれていることもあるため、様子を見て気になるときは動物病院で相談すると安心です。
すり寄って甘えてくるのに抱っこは苦手、という子もめずらしくありません。甘えのしぐさに込められた気持ちは、こちらの記事で解説しています。

抱っこを嫌がるサインを見逃さない
抱っこを続けてよいかどうかは、猫のサインで判断します。いやがるサインが出たら、無理をせずそっとおろしてあげることが、抱っこ嫌いを悪化させないいちばんのコツです。下の表を目安にしてください。
| 猫のサイン | 気持ち・対応 |
|---|---|
| しっぽを激しく振る・体をよじる | 「いやだ」のサイン → そっとおろす |
| 耳が横〜後ろに伏せる | 不安・不快 → 無理に続けない |
| 体がこわばる・鳴いて訴える | 強いストレス → すぐ解放する |
| ゴロゴロ・体の力が抜けている | リラックス → もう少し続けてOK |
いやがっているのに抱き続けると、猫は身を守ろうとして噛んだり引っかいたりすることがあります。これは反撃というより「やめて」という必死のサインです。噛む理由については、こちらの記事で詳しく解説しています。

猫が安心する正しい抱き方
抱っこ嫌いの原因が抱き方にあることは少なくありません。猫は足場が不安定な状態をとても嫌うため、体をしっかり支えるだけで受け入れてくれる子もいます。基本の手順は次のとおりです。
- 正面からではなく横または後ろから、声をかけながら近づく
- 片手を前足の付け根(胸の下)に差し入れる
- もう一方の手でお尻と後ろ足をしっかり支える(ここが最重要)
- 猫の体を自分の胸に密着させて、体重を預けられる状態にする
ポイントは「お尻を支える」ことと「体を密着させる」ことです。上半身だけを持ち上げて後ろ足が宙に浮くと、猫は落ちる不安から暴れやすくなります。人の体にぴったりつけると足場ができ、落下も防ぎやすくなります。反対に、次のような抱き方は避けましょう。
- 脇の下だけを持って持ち上げる(後ろ足が宙に浮き不安になる)
- 体から離して正面で向かい合わせに抱える
- 逃げられないようぎゅっと締めつける
- 首の後ろをつまんで持ち上げる(成猫では体に負担がかかります)
おろすときも大切です。高い位置から手を離すと落下の不安が残ってしまうため、床の近くまで下げ、猫の四本足が床についてから手を離すようにしましょう。「抱っこは怖くない」という記憶につながります。
少しずつ抱っこに慣らすコツ
抱っこ嫌いは、あせらず少しずつ取り組むことで、和らげられることがあります。ポイントは「抱っこ=いいことがある」と感じてもらうことと、いやがる前にやめることです。
- まず体に触れることから慣らす(なでる→軽く抱える)
- 抱っこは数秒だけから始め、少しずつ時間をのばす
- 抱っこのあとにおやつや好きな遊びで「いいこと」とセットにする
- いやがるサインが出る前にそっとおろす
- 猫が落ち着いているときを選ぶ(眠い・遊び中は避ける)
成猫は自我が確立しているので、子猫のように短期間で慣れるとは限りません。焦らず、信頼関係を築きながら距離を縮めていきましょう。どうしても苦手な子もいるので、無理に「抱っこ好き」を目指す必要はありません。
慣らす練習の進め方|段階を飛ばさないのがコツ
抱っこの練習は、1段階ずつ進み、いやがったら前の段階に戻るのが基本です。焦って先に進むと「抱っこ=いやなこと」の記憶が強まってしまいます。目安として、次のように進めてみてください。
| 段階 | やること | 次に進む目安 |
|---|---|---|
| 1 | 好きな場所(あご下・頬)をなでる | 自分から寄ってくる |
| 2 | 胸の下やお尻に手を添えるだけ | いやがらず受け入れる |
| 3 | 数秒だけ持ち上げてすぐ下ろす | 暴れずに下りられる |
| 4 | 10秒ほど抱いておやつを渡す | 落ち着いていられる |
| 5 | 少しずつ時間をのばす | ゴロゴロや脱力が見られる |
各段階は1日1〜2回、数分以内で十分です。回数を増やすより、「いやになる前に終わる」ことのほうが大切だと考えられています。うまくいった日も、もう一度やりたくなる気持ちをこらえて切り上げると、次につながります。
進み方には大きな個体差があります。数日で段階4まで進む子もいれば、段階2で数か月かかる子もいます。期間の目安にこだわらず、その子の反応だけを基準にしてください。何度試しても強く抵抗する場合は、無理に続けず、後述するキャリーの活用に切り替えるほうが現実的です。
子猫のうちから慣らしておくと安心
子猫の時期は、いろいろな刺激を受け入れやすい時期といわれます。この時期に抱っこや体を触られることを「ふつうのこと」として経験しておくと、大人になってからの通院やお手入れがぐんと楽になります。
抱っこと同時に、足先・耳・口のまわり・おなかにそっと触れる練習も少しずつ取り入れておくと、爪切りや投薬のときに役立ちます。いずれも1回数秒からで十分で、終わったらおやつや遊びとセットにするのがコツです。
ただし、子猫だからといって長時間の抱っこを続けるのは逆効果です。子猫は体力の消耗も早いため、短く・こまめに・楽しい記憶とセットでを守りましょう。すでに成猫を迎えている場合でも、遅すぎることはありません。時間はかかりますが、同じ手順で少しずつ進められます。
通院・災害など「どうしても抱っこが必要な場面」への備え
抱っこが苦手でも、通院やキャリーへの移動、災害時の避難など、どうしても抱き上げが必要な場面はあります。いざというときに大暴れしてしまうと、猫にも飼い主にも危険が及びます。ふだんから短い抱っこの練習を少しだけ続けておくと、こうした場面での負担を減らせます。
また、抱っこそのものが苦手な子には、キャリーバッグや洗濯ネットを活用する方法もあります。ふだんからキャリーを部屋に置いて「安心できる場所」にしておくと、通院時に無理な抱っこをせずに移動しやすくなります。洗濯ネットは通院など短時間の移動時に使い、入れたまま目を離さないようにしましょう。抱っこが必要な場面と、その前後のケア(爪切りなど)をなるべく穏やかに行うことも、抱っこへの苦手意識をやわらげる助けになります。爪切りのやり方は、こちらの記事で解説しています。

抱っこ以外の形で甘えてくるサインと、その応え方はこちらで解説しています。

抱っこは苦手でも膝には乗る猫もいます。膝に乗る理由はこちらで解説しています。

よくある質問
- Q抱っこを嫌がるのは嫌われているからですか?
- A
いいえ、嫌われているわけではありません。猫は体を拘束されて自由に動けなくなるのが苦手な本能があり、抱っこそのものにストレスを感じやすいだけです。すり寄って甘えてくるのに抱っこは嫌がる、という子はたくさんいます。抱っこの好き嫌いと、飼い主さんへの信頼や愛情は別のものと考えてよいでしょう。
- Q抱っこに慣らすにはどうすればいいですか?
- A
まず体に触れることから慣らし、抱っこは数秒だけから始めて少しずつ時間をのばします。抱っこのあとにおやつや好きな遊びをセットにすると、「抱っこ=いいこと」と学習してくれやすくなります。いやがるサインが出る前にそっとおろすこと、猫が落ち着いているときを選ぶことも大切です。成猫は焦らず、信頼関係を築きながら進めましょう。
- Q正しい抱き方を教えてください。
- A
片手で胸の下を支え、もう一方の手でお尻や後ろ足を支えると、猫の体が安定して安心しやすくなります。足が宙ぶらりんにならないようにし、体をぎゅっと締めつけないことがポイントです。猫は足場がしっかりしていると落ち着きやすいので、不安定にならないよう気をつけましょう。いやがるサインが出たら、無理をせずそっとおろしてあげてください。
- Q抱っこが苦手でも通院はできますか?
- A
できます。抱っこが苦手な子には、キャリーバッグや洗濯ネットを活用する方法があります。ふだんからキャリーを部屋に置いて「安心できる場所」にしておくと、通院時に無理な抱っこをせずに移動しやすくなります。あわせて、短い抱っこの練習を少しだけ続けておくと、いざというときの負担を減らせます。
- Q抱っこするとすぐ暴れて落ちそうになります。どうすればいいですか?
- A
お尻と後ろ足がしっかり支えられているか確認してみてください。上半身だけを持ち上げて後ろ足が宙に浮くと、猫は落ちる不安から暴れやすくなります。体を自分の胸に密着させて足場をつくると落ち着きやすくなります。おろすときは床の近くまで下げ、四本足が床についてから手を離すと安全です。それでも強く抵抗するときは無理をせず、キャリーの活用に切り替えましょう。
猫が抱っこを嫌がるのは、拘束されるのが苦手という本能によるところが大きく、嫌われているわけではありません。いやがるサインを見逃さず、無理をしないことが、抱っこ嫌いを悪化させないいちばんのコツです。短時間から・ごほうびとセットで・落ち着いているときに、あせらず慣らしていきましょう。通院や災害などの場面に備えて少しだけ練習しておくと、猫にとっても飼い主にとっても安心です。
