猫が顔や体を飼い主さんの足にこすりつけてくる「すりすり」。かわいくてつい嬉しくなりますが、じつはいちばんの理由は「マーキング(においつけ)」だと考えられています。猫は顔まわりの臭腺からフェロモンを分泌しており、すりすりすることで「ここは自分の場所」「この人は自分のもの」というにおいをつけているのです。もちろん愛情や挨拶、おねだりの意味もあります。この記事では、猫がすりすりする理由を場所・相手別にひもとき、すりすりされやすい人の特徴や上手な応え方まで、獣医師監修メディアの情報をもとにやさしく解説します。
- いちばんの理由はマーキング。顔まわりの臭腺からフェロモンを分泌し、においをつけている
- においで縄張りを自分のにおいで満たすと安心できるため、リラックスにもつながる
- マーキングに加えて、愛情・挨拶・おねだりの意味が重なることも多い
- 壁・柱の角、靴、スマホ、宅配便など「外のにおい」がついた物にもすりすりしやすい
- すりすりされやすい人は猫を無理に追わず、落ち着いて受け止める人の傾向がある
猫がすりすりする理由|いちばんは「マーキング」
すりすりにはいくつかの意味が重なっていますが、根っこにあるいちばんの理由はマーキング(においつけ)だと考えられています。ここでは代表的な3つの意味を紹介します。どれかひとつというより、複数の気持ちが同時に込められていることが多いのがすりすりの特徴です。
①マーキング=自分のにおいをつける(いちばんの理由)
猫の頬・額・あご・口のまわりなど顔まわりには、フェロモンを分泌する臭腺が多く集まっています。すりすりして顔をこすりつけるのは、この部分のにおい(フェイシャルフェロモンと呼ばれます)を対象につけている行動です。猫は縄張り意識の強い動物で、自分のにおいがついた場所や物、人に囲まれていると安心できます。つまりすりすりは、「ここは自分の場所」「この人は自分のもの」とにおいでしるしをつけて、自分も落ち着くという意味を持っているのです。人の目には見えませんが、猫にとってはにおいの“名札”をつけているようなイメージです。
②愛情・挨拶
すりすりには、親愛や挨拶の気持ちも込められています。猫同士でも、仲のよい猫は顔や体をこすり合わせて挨拶をします。飼い主さんにすりすりするのは、その延長で「あなたが好き」「ただいま」「おかえり」といった気持ちのあらわれと考えられます。マーキングと愛情表現は切り離せるものではなく、「大切なあなたに自分のにおいをつけて、仲間だと確かめている」と考えるとしっくりきます。朝起きたときや帰宅時にすりすりが増えるのは、久しぶりに会えた挨拶とにおいの再確認をしているためです。
③おねだり
ごはんの時間や遊んでほしいときに、すりすりしながらアピールしてくることもあります。とくに、すりすりに合わせて「ニャー」と鳴いたり、足元をぐるぐる回ったりするときは、「かまってほしい」「ごはんちょうだい」というおねだりのサインであることが多いです。すりすりに応えるとおねだりが叶うと学習すると、その行動が増えることもあります。空腹の時間帯や遊びのあとにすりすりが多いなら、要求の意味合いが強いと考えてよいでしょう。
場所・相手別|猫はどこにすりすりする?
すりすりの対象は、飼い主さんだけではありません。においつけという視点で見ると、猫がなぜその物にすりすりするのかが見えてきます。
壁・柱の角・家具にすりすり
壁や柱の角、家具の角、ドアのふちなど、ちょうど顔の高さで出っ張っている場所は、猫がすりすりしやすいポイントです。決まった場所に何度もこすりつけるのは、そこに自分のにおいを重ねて「自分の縄張り」として維持しているためと考えられます。家の中が自分のにおいで満たされていると、猫は安心して過ごせます。同じ場所ばかりこすると、うっすら汚れがつくこともありますが、それだけお気に入りのポイントということです。
靴・スマホ・宅配便など「外のにおい」の物にすりすり
帰宅したときの靴やカバン、スマホ、届いたばかりの宅配便の箱など、外のにおいがついた物に猫が熱心にすりすりすることがあります。これは、外の知らないにおいの上に自分のにおいを重ねて、「自分のなわばりのにおい」に上書きしようとしている行動と考えられています。「外のにおいが気になるけれど、自分のにおいをつけて安心したい」という気持ちのあらわれといえるでしょう。飼い主さんが外でほかの動物にふれた日などは、いつもより念入りにすりすりすることもあります。
飼い主さんの足・顔にすりすり
飼い主さんの足や、しゃがんだときの顔・手にすりすりしてくるのは、マーキングと愛情・挨拶が重なった行動です。「あなたは自分の大切な仲間」というにおいをつけながら、甘えたり挨拶したりしています。朝起きたときや帰宅時にすりすりが多いのは、ひさしぶりに会えた挨拶とにおいの確認をしているためと考えられます。顔をこすりつけてくるのは、いちばん親しい相手に見せる甘えのサインでもあります。
すりすりされやすい人・されにくい人の違い
「自分にはあまりすりすりしてくれない」と感じる方もいるかもしれません。すりすりされやすい人には、いくつかの傾向があると考えられています。
- 猫を無理に追いかけず、猫のペースを尊重してくれる人
- 大きな声や急な動きが少なく、落ち着いて過ごしている人
- ごはんやお世話をしてくれる、生活のなかで関わりが深い人
- 猫が嫌がる触り方をせず、心地よくなでてくれる人
反対に、猫を追いかけ回したり、大きな音を立てたり、しつこく構ったりすると、猫は警戒して距離を取りがちです。すりすりしてほしいときは、猫から近づいてくるのを待つのがいちばんの近道です。猫が甘えてきたら、無理に抱き上げず、優しく受け止めてあげましょう。ただし、すりすりの多さには個体差や性格の影響も大きく、あまりすりすりしない子が「懐いていない」わけではありません。もともとクールな性格の子や、においつけをあまりしない子もいます。
猫の臭腺はどこにある?すりすり以外のにおいつけ
猫のにおいを分泌する臭腺は、じつは顔まわりだけではありません。頬・額・あご・口のまわりに加えて、しっぽの付け根や、前足の肉球のあいだなどにも臭腺があるとされています。だからこそ、猫は顔をこすりつけるすりすり以外にも、さまざまな方法で自分のにおいをつけています。
たとえば、柱や爪とぎでの「爪とぎ」も、爪あとと肉球のにおいを残すマーキングの役割を持つといわれています。また、しっぽを立てて体をこすりつけてくるのも、においつけと親愛が重なった行動です。すりすりを「においつけの一種」としてとらえると、猫のいろいろな行動が同じ目的でつながっていることが見えてきます。どれも、自分のにおいで身のまわりを満たして安心したい、という猫らしい気持ちのあらわれです。
猫同士のすりすりにも意味がある
すりすりは、人に対してだけでなく猫同士でも見られる行動です。仲のよい猫同士は、顔や体、しっぽをこすり合わせて挨拶をしたり、においを交換したりします。こうしてお互いのにおいを混ぜ合わせることで、「同じ仲間」という共通のにおい(グループのにおい)をつくり、安心し合っていると考えられています。
多頭飼いのご家庭で、猫同士がすりすりし合っているなら、関係が良好なサインといえます。反対に、あまりすりすりし合わず距離を取っているときは、まだお互いに慣れていない段階のこともあります。猫同士のすりすりは、群れのなかでの仲のよさをはかる手がかりのひとつになります。
すりすりへの上手な応え方
すりすりしてきたら、猫が心地よく感じる範囲で応えてあげましょう。猫が自分から顔をこすりつけてくる頬・あご・額のまわりは、なでられて喜ぶことが多い部位です。ゆっくりやさしくなでてあげると、信頼関係が深まります。反対に、しっぽやお腹、足先などは嫌がる子も多いので、様子を見ながら触りましょう。
おねだりのすりすりに毎回すぐ応えていると、要求がエスカレートすることもあります。とくにごはんの前のすりすりに応えすぎると、決まった時間以外にも催促が増えることがあります。かわいくてつい応えたくなりますが、食事の量や回数はふだんのリズムを崩さない範囲にとどめ、遊びやスキンシップで気持ちを満たしてあげるのがおすすめです。
また、すりすりをしてくるからといって、必ずしも「抱っこしてほしい」わけではありません。すりすりは甘えのサインであると同時に、においつけという猫のペースで行う行動です。応えるときは、猫が嫌がるそぶり(体をよじる・しっぽを大きく振るなど)が出ていないかを見ながら、無理のない範囲でふれあうことが、良い関係を長く続けるコツです。
急にすりすりしなくなった・しつこいときは?
すりすりは基本的にほほえましい行動ですが、「いつもと違う」変化には気を配りたいところです。これまでよくすりすりしていた子が急にしなくなった、あるいは食欲や元気の低下などほかの変化と重なっているときは、体調や気持ちに変化があるサインのこともあります。反対に、急にすりすりや鳴き声が増えて落ち着かない様子が続くときも、環境の変化やストレスが背景にある場合があります。
すりすりの量そのものには個体差が大きいため、回数の増減だけで心配しすぎる必要はありません。ただ、食欲・元気・トイレの様子など、ほかのサインと合わせて「いつもと違う」が続くときは、自己判断で様子を見すぎず、動物病院で相談すると安心です。ふだんのすりすりの様子を覚えておくことが、変化に早く気づくコツになります。
すりすりしながら鳴く・ついてくるときは?
すりすりに合わせて鳴いたり、しつこくまとわりついたりするときは、おねだりや「かまってほしい」という気持ちが強いことが多いです。どんな鳴き声を出しているかで気持ちを読み取りやすくなるので、鳴き声の意味とあわせて観察してみましょう。猫の鳴き声の意味は、以下の記事で詳しく解説しています。

また、すりすりのあとに飼い主さんについて回る子も多いものです。猫がついてくる理由については、以下の記事もあわせてご覧ください。

すりすりのあとにくつろぐ「香箱座り」の意味も、こちらの記事で解説しています。

すりすりと同じ愛情のサイン、じっと「見つめてくる」視線の意味はこちらで解説しています。

よくある質問
- Q猫のすりすりはマーキングと愛情表現、どちらですか?
- A
どちらか一方ではなく、両方が重なっていると考えられます。根っこにあるのは顔まわりの臭腺を使ったマーキング(においつけ)ですが、それは同時に「あなたは自分の大切な仲間」という愛情・挨拶の意味も持っています。大切な相手に自分のにおいをつけて、仲間だと確かめ合っていると考えるとよいでしょう。
- Q帰宅すると靴や宅配便の箱にすりすりするのはなぜですか?
- A
靴や宅配便の箱には「外のにおい」がついています。猫はその上に自分のにおいを重ねて、自分の縄張りのにおいに上書きしようとしていると考えられます。知らないにおいが気になるけれど、自分のにおいをつけて安心したい、という気持ちのあらわれです。心配な行動ではありません。
- Qあまりすりすりしてくれないのは懐いていないからですか?
- A
すりすりの多さには個体差や性格が大きく影響するため、すりすりが少ない=懐いていない、とは限りません。そばで香箱座りをする、同じ空間で過ごす、ゆっくりまばたきを返すなど、猫の甘え方や愛情表現はさまざまです。すりすりしてほしいときは、猫を追いかけず、向こうから近づいてくるのを落ち着いて待つのがいちばんです。
- Q急にすりすりしなくなったら心配したほうがいいですか?
- A
すりすりの量には個体差や気分の波があるため、回数の増減だけで心配しすぎる必要はありません。ただし、食欲や元気の低下、隠れる時間が増えたなど、ほかの変化と合わせて「いつもと違う」が続くときは、体調や気持ちに変化があるサインのこともあります。断定はできませんので、気になる様子が続くときは自己判断で様子を見すぎず、動物病院で相談すると安心です。
猫のすりすりは、顔まわりの臭腺を使ったマーキングを土台に、愛情・挨拶・おねだりが重なった、とても猫らしい行動です。「自分のにおいをつけて安心したい」「あなたは大切な仲間」という気持ちのあらわれと受け止めて、猫が甘えてきたら優しく応えてあげましょう。すりすりに合わせた鳴き声やしぐさも観察すると、愛猫の気持ちがより深く読み取れるようになります。
