子犬や子猫を迎えようと調べていくと、ブリーダーから直接か、ペットショップの店頭か、という分かれ道に必ず行き当たります。検索して出てくる比較の記事が並べる軸は、価格と「親犬を見られるかどうか」の二つです。
ところが動物愛護管理法を読むと、その前提が少し違って見えてきます。法律はこの二つを別の業種として分けておらず、飼い主に直接売るかぎり、課している義務もほぼ同じだからです。親犬や生まれた場所を見せることも、長所ではなく義務のほうに入っています。
そのうえで、一か所だけ本当に向き先の違うルールがありました。この記事では条文と省令をたどって、同じ義務はどこまでで、違うのはどこなのかを整理します。比べる軸が決まれば、あとはどちらから迎えるかを自分の条件で選べるはずです。
法律は、ブリーダーとペットショップを分けていない
まず業の枠組みから見ていきます。ここがそろっていることが、あとの義務が同じになる理由だからです。
どちらも「販売」の登録を受けた同じ業種
同法第十条第一項は、動物の取扱業を販売・保管・貸出し・訓練・展示などに分けたうえで、これを業として行う者は都道府県知事(指定都市ではその長)の登録を受けなければならないと定めています。ブリーダーもペットショップも、ここでいう販売業として登録を受けます。
そのため登録番号は両方にあります。犬舎で繁殖している人だから登録が要らない、ということはありません。番号をどこで確かめられるかはペットシッターの動物取扱業登録|登録番号はどこで確認できるのかに書いたとおりで、調べ方は販売業でも同じです。
飼い主に売るときの義務は、どちらも同じ
次が本題です。買う人から見ていちばん差が出そうな「見せる・説明する」の部分が、実は両者で分かれていません。
事業所で現物を見せ、対面で18項目を説明する
同法第二十一条の四は、犬や猫などの販売を業として営む者に対して、販売するときはあらかじめ、買おうとする人に「その事業所において」動物の「現在の状態を直接見せる」ことを求めています。そのうえで対面により、書面か電磁的記録を使って飼養の方法や生年月日、さらに「当該動物に係る繁殖を行つた者の氏名」などを伝えなければならない、と続きます。
東京都の販売業者向けの案内は、この義務を「18項目の重要事項を対面で文書等を用いて説明する」と書き、対象を哺乳類・鳥類・爬虫類の販売を行うすべての第一種動物取扱業者としています。施行されたのは令和2年6月1日です。
つまり事業所に動物を置いて、そこで見せてから売るのが前提になっています。犬舎を持つブリーダーが見学を受けるのも、店舗に子犬がいるのも、同じ条文から来ている景色だと考えると分かりやすくなります。
契約のときの署名は「説明を受けました」の確認
この説明には、受けた側の記録を残す仕組みまで付いています。基準省令の第二条第七号ヘが販売業者に対して、「当該情報提供を受けたことについて顧客に署名等による確認を行わせること」と定めているためです。
迎えるときに書類へサインした覚えがあるなら、それは18項目の説明を受けたという確認を兼ねている可能性があります。読まずに署名してしまうと、あとから聞いていないと言いにくくなるところです。逆に言えば、サインを求められた時点が、聞き返せる最後の場面になります。
18項目は飼育方法から費用まで幅があり、全部を覚える必要はありません。買う人がとくに使いやすいのは次の7つで、このあたりを書面のどこに書いてあるか聞くと話が早く進みます。
| 書いてあるはずのこと | 何が分かるか |
|---|---|
| 繁殖を行った者の氏名と登録番号 | どこで生まれたかをたどれる |
| 生年月日 | 何日目で家に来るのかが分かる |
| 病歴とワクチンの接種状況 | 迎えた直後に要る医療の見当 |
| 親と同腹子の遺伝性疾患の発生状況 | かかりやすい病気を先に知れる |
| 不妊や去勢の方法と費用 | あとから要る費用の目安 |
| 性別の判定結果 | 名前や迎え方を決められる |
| 性成熟時の標準体重や標準体長 | 大きくなったときの体格の目安 |
「親犬を見られる」は長所ではなく、両方にかかる義務
ここまでをふまえると、比較記事でよく見る整理の一部は言い換えが要ります。ブリーダーなら生まれた環境を確認でき、ペットショップでは親の様子が分かりにくい、という対比です。条文のうえでは、動物の現在の状態を事業所で直接見せるのは両方の義務で、繁殖を行った者の氏名も両方が伝える側に立っています。
ただし限定が一つあります。東京都の案内は対象を小売業としたうえで、「第一種動物取扱業者に対して販売を行う場合(卸売などの業者間取引)は除きます」と書いています。ブリーダーがペットショップへ渡すときは現物確認と対面説明の対象ではなく、重要事項の説明文書を交付する義務だけが残るわけです。
差が出るとすれば、法律のありなしではなく、書面に書かれた繁殖者の情報をその場でどこまで確かめられるかのほうです。犬舎に行けば書面の氏名と目の前の親犬が一致しているか見られますし、店頭なら書面と登録番号から後でたどることになります。
本当に違うのは、日数のルールが向いている先
そしてここからが、二つで本当に分かれるところです。話題になりやすい生後56日の制限は、売る人ではなく繁殖する人に向けられています。
56日の制限は「繁殖を行う者」にかかる
同法第二十二条の五は、犬猫等販売業者のうち「販売の用に供する犬又は猫の繁殖を行う者に限る」と名宛人をしぼったうえで、自分が繁殖させた犬猫のうち「出生後五十六日」を経過しないものについて、販売のためまたは販売に供するための引渡しや展示を禁じています。
引渡しの相手は限定されていないので、ブリーダーはペットショップに対しても56日前には渡せません。国内のブリーダーが繁殖させた子であれば、店頭に出る時点でこの日数を越えていることになります。制限のかけ方が川上に置かれている、という形です。
49日になるのは、天然記念物の犬を飼い主に直接売るときだけ
この56日には例外が一つあり、条件が二重についています。附則の指定犬に係る特例は、文化財保護法により天然記念物として指定された犬を専ら繁殖している業者が、犬猫等販売業者以外の者にその犬を売る場合に限って、56日を49日と読み替えると定めています。
読み替えの条件に相手方が入っているので、同じ犬でもペットショップへ渡すなら56日のままです。飼い主へ直接売る場合だけが49日になります。なお、どの犬種が指定されているかは文化財保護法による指定の話で、この法律には書かれていません。
売る側には、離乳と2日間の観察という別の制限がある
では仕入れて売るだけのペットショップは何も縛られないのかというと、そうではありません。基準省令の第二条第七号は販売業者全般に対して、「離乳等を終えて、成体が食べる餌と同様の餌を自力で食べることができるようになった動物」を販売に供することを求めています。
同じ号はさらに、下痢やおう吐、四肢の麻痺といった外形上明らかな状態を「二日間以上」目視で観察し、健康上の問題が認められなかった動物を売るようにとも定めています。日数で線を引くのが繁殖する側、状態で線を引くのが売る側、という分担になっています。
| 見るところ | ブリーダー | ペットショップ |
|---|---|---|
| 販売業の登録 | 必要 | 必要 |
| 事業所での現物確認 | 飼い主へ直接売るとき | 必要 |
| 対面での18項目の説明 | 飼い主へ直接売るとき | 必要 |
| 顧客の署名による確認 | 必要 | 必要 |
| 出生後56日の制限 | かかる(繁殖する場合) | 直接の名宛人ではない |
| 離乳と2日間の目視観察 | かかる | かかる |
説明が無かったと思ったとき、どこに言うか
義務が同じだと分かると、受けられなかったときの道筋も共通になります。相手がブリーダーでもペットショップでも、窓口は登録先の都道府県か指定都市です。
同法第二十三条第二項は、第二十一条の四を守っていないと認めるときや、犬猫等販売業者が第二十二条の五を守っていないと認めるときに、知事が期限を定めて必要な措置をとるよう勧告できるとしています。勧告に従わなかった場合は第三項により「その旨を公表することができる」、さらに第四項で命令へ進みます。
さらに重いのが、登録そのものを失う場合です。第十九条第一項は、この法律や法律に基づく処分に違反したときに、登録の取消しか6か月以内の業務停止を命じることができると定めています。ただし第二十二条の五そのものに罰金や過料は置かれていないので、違反がただちに刑罰へつながるわけではありません。
よくある質問
比較の軸から少し外れる問いを、最後にまとめます。
- Q説明を受けないまま契約してしまいました。
- A
書面が手元にあるなら、まずそこを読み直してみてください。18項目は口頭だけでなく書面か電磁的記録で渡すことになっているので、渡された資料の中に入っていることがあります。
そのうえで足りない項目があれば、売った相手に聞くのが先です。応じてもらえないときの相談先は、登録先の都道府県または指定都市の窓口になります。
- Qオンラインの面談だけで購入することはできますか?
- A
条文は事業所での現物確認と対面を求めており、対面によることが困難な場合を環境省令で定めれば代わりの方法も認める、という構えになっています。
ただし施行規則と基準省令を全文で探しても、その場合を定めた規定は見当たりませんでした。画面越しだけで完結する買い方を前提にしないほうが安全です。
- Qブリーダーのほうが安いというのは本当ですか?
- A
この記事では価格の高い低いは扱いません。仕入れの段階が一つ減るという説明はよく見かけますが、当社が価格を集めて比べたわけではないためです。
代わりに確かめられるのは、書面に繁殖者の氏名と登録番号が入っているかどうかです。そこは価格と違って、どちらから迎える場合でも同じ基準で見られます。
まとめ
ブリーダーとペットショップは、法律のうえでは同じ販売業です。飼い主に直接売るかぎり、店や犬舎で現物を見せ、顔を合わせて18項目を伝え、受けたことの署名をもらうところまでが共通していました。親犬を見せることも、どちらかの売り文句ではなく両方の義務だったわけです。
違っていたのは日数のルールの向き先だけで、56日は繁殖する人に、離乳と2日間の観察は売る人にかかっていました。そう考えると、迎え先を決める基準は法律の外にあります。書面に書かれた繁殖者を、目の前の親犬や登録番号とその場で突き合わせられるかどうか。そこを基準に置くと、迷いはだいぶ減るはずです。
出典: e-Gov法令検索「動物の愛護及び管理に関する法律」/e-Gov法令検索「動物の愛護及び管理に関する法律施行規則」/e-Gov法令検索「第一種動物取扱業者及び第二種動物取扱業者が取り扱う動物の管理の方法等の基準を定める省令」/東京都保健医療局「第一種動物取扱業者(販売業)の皆様へ」(2026年10月25日に確認)。法令や省令は改正されることがあるので、手続きの詳しいところはお住まいの自治体の窓口でご確認ください。
