猫は、扉が開いていればクローゼットにも押し入れにも入ります。暗くて狭くて、しまってある服のにおいがする場所です。そこに防虫剤を置いたままでいいのかどうかは、調べてもなかなかはっきりしません。
衣類の防虫剤は、成分が4つに分かれています。メーカーがペットについて答えているのは、そのうち1つだけでした。残りの3つには、ペットという言葉がどこにも出てきません。
この記事では、その1つの答えが実際には何を指しているのかと、自分の家にある防虫剤がどれなのかを見分ける場所をまとめました。猫と金魚で答えが分かれるところまで、メーカーは書いています。
衣類の防虫剤は、成分が4つに分かれています
ひとくちに防虫剤といっても、中身は1種類ではありません。生活害虫防除剤協議会が、しょう脳、ナフタリン、パラジクロルベンゼン、ピレスロイド系の4つに分けて、標準の使用量と有効期間を示しています。同じ引き出しに使うものでも、必要な量は30グラムから100グラムまで幅があります。
| 薬剤 | 使用量 | 有効期間 |
|---|---|---|
| しょう脳 | 30g | 約5ヵ月以上 |
| ナフタリン | 100g | 約5ヵ月以上 |
| パラジクロルベンゼン | 56g | 約4ヵ月以上 |
| ピレスロイド系 | 製品の表示に従う | 半年用・1年用 |
この協議会は、厚生労働省の指導により1987年に設立された業界団体です。家庭用の防除剤について自主基準を設けていて、基準を満たした製品には登録マークが付きます。その協議会が標準の使用量を示しているのが、この4つです。
そのうえで協議会は、4つのうち「ピレスロイド系の防虫剤以外は、他の薬剤との併用を避けてください。」と書いています。成分が違えば混ぜられない、という前提が先にあります。
ペットのことが書いてあるのは、ピレスロイド系の1件だけです
エステーの製品Q&Aには、防虫剤についての質問が20件あります。虫に食われたときの対処、革製品に使えるか、赤ちゃんの衣類に使えるか、といった内容です。そのなかでペットに触れている質問は、1件しかありません。
「ムシューダ」ペットに害はありませんか? という質問に、エステーはこう答えています。「犬や猫などの哺乳類や鳥類などの恒温動物には安全性が高く、万が一体に入っても速やかに分解され、短時間で体外へ排出されてしまいます。」
犬や猫について、メーカー自身が答えている文はこれです。ただし、これはエステーの説明であって、当社が試験で確かめたものではありません。メーカーに問い合わせたわけでもなく、公開されている回答を読んだだけです。
もうひとつ大事なのは、この回答がムシューダについてのものだという点です。質問文にも回答文にも製品名が入っています。4つの成分のうちピレスロイド系に当たる製品で、ほかの3つに同じ答えを当てはめることはできません。
同じ回答のなかで、犬猫と金魚は分かれています
先ほどの回答には続きがあります。エステーは同じ答えのなかで、「昆虫のほか、魚類、両生類、爬虫類には毒性があるため、カブトムシやスズムシ、金魚、熱帯魚などがいる部屋では使用をさけるなどご注意ください。」と書いています。
「ペットに害はありませんか」というひとつの質問に対して、メーカーは動物の種類で線を引いて答えているわけです。体温を自分で保つ動物と、そうでない動物で分かれています。犬と猫と鳥が前者で、魚類と両生類と爬虫類、それに昆虫が後者です。
猫だけを飼っている家なら、読むのは前半だけで足ります。けれども猫と金魚を同じ部屋で飼っているなら、後半のほうが効いてきます。メーカーが名前を挙げているのは、カブトムシ、スズムシ、金魚、熱帯魚の4つです。
「安全性が高い」と書かれているのは、有効成分のことです
ムシューダの成分表示を見ると、「エンペントリン(防虫成分)、イソチアゾリン系防カビ剤」と書いてあります。防虫のはたらきをするエンペントリンのほかに、カビを抑える成分がもう1つ入っています。
一方、先ほどの回答が説明しているのは、有効成分のピレスロイドについてです。回答文は「ムシューダの有効成分」という言葉から始まります。防カビ剤のほうについては、この回答は触れていません。
これは「だから危ない」という話ではありません。答えの範囲の話です。製品まるごとについて安全だと言っているのか、その中の1つの成分について言っているのかは、読むときに分けておいたほうが正確です。
パッケージの注意書きには、ペットが出てきません
では、製品そのものの注意書きはどうなっているでしょうか。ムシューダとネオパラエースの2製品で、使用上の注意を読み比べました。
| 製品 | 品名の表示 | ペットへの言及 |
|---|---|---|
| ムシューダ | せんい製品防虫剤<エンペントリン製剤> | 製品Q&Aに1件(注意書きは無し) |
| ネオパラエース | せんい製品防虫剤<パラジクロルベンゼン製剤> | 無し |
どちらの注意書きにも、ペットという言葉はありません。人について書いてあるのは「幼児の手の届くところに置かない。」と「本品は食べられない。万一食べた時には医師に相談する。」の2つで、動物の話は出てきません。
業界団体のガイドも同じでした。協議会の使用方法のページには、ペットも犬も猫も書かれていません。読んだのはこの2製品と協議会のガイドだけなので、すべてのメーカーの全製品がそうだとは言えません。ただしこの範囲でいえば、犬猫に触れているのは先ほどのQ&Aの1件だけでした。
4つに共通しているのは「密閉して使う」です
成分がどれであっても、注意書きに共通して出てくる一文があります。製品側は「密閉性のある収納容器で使用する。」、協議会は「密閉性のある容器で使用してください。」。言い方は少し違いますが、同じことを求めています。
なぜ密閉なのかは、防虫剤の効き方でわかります。エステーは「防虫剤に接しているだけの状態や、防虫成分濃度の薄い状態では虫は死にません。この点が殺虫剤と違うところです。」と説明しています。薬剤に触れた虫を倒すのではなく、揮散した成分が空間にたまることで効く仕組みです。
だから、成分がたまらない場所では効果が出ません。そして猫が自分で入っていけるクローゼットは、閉じた容器にはなっていません。扉が開いているか、猫が自分で開けてしまうからです。
猫が入る場所と、防虫剤が想定している場所は、この一点でずれます。猫が入らない引き出しや衣装ケースで使うなら想定どおりですが、猫の通り道になっているクローゼットはそうではありません。扉を閉めておけるかどうかが分かれ目なので、ドアを開ける猫の対策も合わせて見ておくと整理しやすくなります。
衣替えのときについては、注意書きに「衣類の入れ替えをする時は、部屋の換気をする。」とあります。中にたまっていた成分がいちばん出てくる場面なので、このときだけは猫を別の部屋にしておくと、指示どおりの使い方になります。
パラジクロルベンゼンは、衣類に白い粉として戻ります
4つのうち、ほかの3つにない性質を持っているのがパラジクロルベンゼンです。いったん気体になった成分が、温度が下がると固体に戻ります。ネオパラエースの注意書きには「使用中まれに防虫成分が衣類に粉状または再結晶になって付くことがあるが、シミ・変色などの心配はない。」と書かれています。
ここで気をつけたいのは、心配はないと書かれている対象です。これは衣類についての記述であって、猫がその粉を踏んだりなめたりすることを評価したものではありません。シミにも変色にもならない、という意味の一文です。
粉がついたときの対処も書いてあります。「風通しのよいところに吊るしておくと自然にとれるので、もんだり、こすったり、無理にとらない。」。こすって落とそうとすると生地を傷めるので、吊るして飛ばすほうが確実です。
この性質があるぶん、パラジクロルベンゼンは併用の制限も厳しくなっています。ネオパラエースには「ナフタリンまたはしょう脳との併用は避けること。」という一行があり、混ざると溶けて衣類にシミが残ると説明されています。
自分の家の防虫剤がどれかは、品名の欄に書いてあります
ここまでを使うには、まず手元のものがどの成分かを知る必要があります。見る場所は決まっていて、パッケージの品名の欄です。ムシューダなら「せんい製品防虫剤<エンペントリン製剤>」、ネオパラエースなら「せんい製品防虫剤<パラジクロルベンゼン製剤>」というように、品名そのものに成分名が入っています。
材料名の欄も同じです。ムシューダは防虫成分と防カビ剤、ネオパラエースは「パラジクロルベンゼン、香料」と書かれています。商品名を覚えていなくても、この2か所のどちらかを見れば種類はわかります。
もう入れっぱなしで、何を使ったか思い出せないとき。その場合の手順もエステーが示していて、「古い防虫剤を取り除き、入っている衣類や収納ケースなどを風にあてて、充分ニオイをとばしてから新しいものをいれましょう。」とされています。新しく入れるのがピレスロイド系であれば、そのまま併用してもよいとされています。
猫がよく入る場所なら、入れ替えのタイミングが置き場所を見直す機会です。洗濯機について調べたときと同じで、猫が入れる場所と入れない場所をはっきり分けておくほうが、結果として製品の指示どおりの使い方に近づきます。
よくある質問
- Q猫がいる家では、防虫剤を使わないほうがいいですか?
- A
メーカーがその形で答えているわけではありません。エステーはムシューダについて、犬や猫などの恒温動物には安全性が高いと説明する一方で、魚類・両生類・爬虫類には毒性があるとして、金魚や熱帯魚などがいる部屋では使用をさけるよう書いています。使うか使わないかより先に、自分の家にいる動物と、手元の防虫剤の成分を照らし合わせるほうが答えに近づきます。
- Q猫が防虫剤をなめてしまったかもしれません
- A
その判断は獣医師の領域です。この記事では扱いません。かかりつけの動物病院に連絡して、指示を受けてください。製品の注意書きには「誤食などの対応のため、使用中はこのパッケージを保管する。」とあります。捨てずに持っていくと、話が早くなります。
- Qピレスロイド系なら、クローゼットを開けたままでも大丈夫ですか?
- A
開けたままにすると、防虫剤としての効果のほうが落ちます。密閉した容器で使うことは、4つの成分に共通する条件です。成分が外へ逃げていく場所では、効くだけの濃さが保てません。猫が出入りする場所に置くなら、防虫の目的は果たせていないと考えたほうが実態に合います。
- Qナフタリンやしょう脳は、今でも売っていますか?
- A
協議会の標準使用量の表には4つとも載っています。ただしパラジクロルベンゼンの製品には、ナフタリンまたはしょう脳との併用を避けるよう書かれていて、混ぜると溶けて衣類にシミが残るとされています。併用してよいのはピレスロイド系だけ、と考えておくと間違えません。
なお、ここで確認したのはエステーの2製品と、生活害虫防除剤協議会が公開しているガイドです。すべてのメーカー・全製品を読んだわけではありません。お使いの製品については、手元のパッケージの表示を確かめてください。
