猫と暮らしている家に赤ちゃんが来るとき、先に決めておくと後がぐっと楽になるのは、家のどこを猫の場所として残すかです。ベビーベッドや大人の布団が増えれば猫の寝床も通り道もどこかへずれますし、泣き声や搾乳機の音は猫にとって初めて聞く音になります。区画を先に決めてしまえば、退院してから赤ちゃんを抱いたまま家具を動かすことにはなりません。
この記事では、退院前にやっておく部屋づくりから、帰宅当日の段取り、最初の数週間の進め方、そしてベビーベッドに乗る・威嚇する・隠れて出てこないといった5つの困りごとへの対処までを順番にまとめました。猫をどこかの部屋に閉じ込めるのではなく、猫の居場所を残したまま赤ちゃんの安全を確保する組み立て方です。
猫が落ち着いて過ごせるかどうかは、隠れられる場所があるか、トイレやごはんの置き場所が保たれているか、においと音が急に変わらないかで大きく変わります。そのため、猫の性格を変えようとするよりも、家の側を先に整えるほうが早く落ち着きますよ。
退院前に、家を3つの区画に分けておこう
赤ちゃんを迎える部屋づくりは、物を買い足す前に線引きから始めると迷いません。猫だけが使う区画、猫も赤ちゃんも通る共有の区画、猫を入れない赤ちゃんの区画という3つに分けて紙に書き出しておくと、ベビーベッドをどこに置くかも自然に決まります。
猫だけの区画を先に決めておこう
猫が安心していられるのは、まわりから見られずに済む、少し高い場所です。囲まれて姿が隠れると脅威になりそうなものが視界から消えるので、体が全部隠れていなくても猫は安全だと感じられます。だからこそ赤ちゃんを迎える家でまず用意したいのは、赤ちゃんの手も、やがてハイハイを始めた子の手も届かない高さの居場所です。
棚を1段空ける、キャットタワーを窓際へ動かす、横に倒した段ボール箱を家具のすきまに置く。どれも買い足さずにできますし、猫は体がすっぽり入るくらいの狭い場所を好みます。上下に動ける場所とくつろげる場所がそろっていれば、室内だけで暮らす猫の負担はかなり軽くなるはずです。
高さのある居場所をこれから足すなら、耐荷重と設置方法を先に決めておくと選びやすくなります。

赤ちゃん用品に押し出されがちな、猫のトイレとごはん
猫のトイレ、水、ごはん、爪とぎ、寝床は、それぞれ別の場所に分けて置くのが基本です。しかも同じ役割のものが2か所以上あると、猫はその日の気分や人の動きに合わせて自分で居場所を選べます。ところが赤ちゃん用品が増える時期は、おむつのストックやベビーバスに押されて、猫のトイレが廊下や洗面所の隅へまとめて追いやられがちです。
置き場所を変えるなら、赤ちゃんが来る前に少しずつ動かしておきましょう。猫は汚れたトイレを嫌うので、新しい置き場所でも掃除の回数はこれまでどおりに保ちたいところ。産後はどうしても手が回らなくなるため、誰がいつ片づけるかを家族で決めておくと、あとになって揉めることがありません。置き場所を決めるときは、ハイハイが始まったあとに赤ちゃんが手を伸ばせない場所を選んでおくと、あとで動かさずにすみます。
トイレ掃除を誰が担当するかは、衛生の面から見ても大切なポイントです。妊娠中から産後にかけての感染対策は、こちらで整理しています。

においと音は、赤ちゃんより先に家へ入れておこう
猫はにおいで自分の生活圏の地図を作っています。届いたばかりのベビーベッドやベビーカーは、猫がふだん体をこすりつけている布で軽くなでてから設置すると、猫のにおいがついた家具として受け入れられやすくなります。反対に、香りの強い消臭剤や殺虫剤は猫の近くで使わず、使ったあとは換気しましょう。においに敏感な猫にとって、こうした化学物質は人が思うより大きな負担になります。
音についても同じことが言えて、大きな音や聞き慣れない音は猫を怖がらせます。赤ちゃんの泣き声は、退院してから初めて耳にするより、音源で小さく流して慣らしておくほうが穏やかです。搾乳機、電動のバウンサー、ベビーモニターの通知音も、赤ちゃんが来る前に一度動かして猫の反応を見ておきましょう。
猫の寝床やブランケットを一度に全部洗うと、猫が頼りにしているにおいの目印が家から消えてしまいます。赤ちゃんを迎える前の大掃除では、猫のものは順番をずらして洗い、少なくとも1枚は洗わずに残しておくと安心です。
ここまでの区画分けを1枚にまとめると、次のようになります。
| 区画 | 置くもの | 猫の出入り |
|---|---|---|
| 猫だけの区画 | キャットタワー・寝床・爪とぎ | いつでも自由 |
| 共有の区画 | 猫のトイレ・水・ごはん | 自由・赤ちゃんと一緒のときは大人が同席 |
| 赤ちゃんの区画 | ベビーベッドと寝具 | 入れない |
入院中の猫の世話をどうするか、ベビー用品にいつから慣らすかは、出産前の段階でまとめた記事があります。

退院当日にやることは、いつもどおりの一日
退院当日は、猫にとって家の中がいちばん大きく動く日です。とはいえ、やることを増やす必要はありません。むしろ猫のごはんや遊びの時間をいつもどおりに戻すことのほうが、その日いちばん効きます。
- STEP1帰宅する前に留守番していた猫のごはんとトイレ掃除を、いつもの時間に済ませておきます。荷物の出し入れで玄関を開ける時間が長くなるので、窓とベランダの戸締まりもこのときに確認しておくと安心です。
- STEP2玄関を入ったら赤ちゃんはクーファンや抱っこのままで、先に猫へ声をかけます。久しぶりに帰ってきた飼い主に猫が寄ってきたら、そのまましゃがんで少しだけ相手をしてから部屋へ進みましょう。
- STEP3猫が近づいてきたら抱き上げて赤ちゃんに近づけず、猫が自分の距離でにおいを嗅ぐのに任せます。猫の後ろに人が立たないようにして、いつでも引き返せる状態にしておくのがコツです。
- STEP4夜になる前に短くてもいいので、いつもの遊びの時間を作ります。猫がこれまで寝ていた場所が使えるかどうかも、この日のうちに確かめておきたいところ。
猫が赤ちゃんに近づいては、すぐ離れる動きを何度も繰り返すことがあります。この時期の猫が何を確かめているのかは、産後の行動を時期別に整理した記事にまとめています。

最初の数週間で決まる、猫と赤ちゃんの距離
赤ちゃんが家に来てからの数週間は、猫にとって新しい生活のかたちを覚える期間になります。この時期にやることは2つだけで、猫から近づく形にすることと、猫の1日の予定を崩さないことです。
抱っこで会わせると、なぜ逆効果になるのか
猫との関わりは、猫の側から始めて猫の側で終われる形がいちばん落ち着きます。人が抱き上げて赤ちゃんに近づけると猫は逃げる選択肢を失いますし、離れようとしたところを引き止められると、次からその場面ごと避けるようになります。猫が自分から寄ってきて、においを嗅いで、飽きたら立ち去る。これを何度か繰り返すうちに、赤ちゃんは家にあるものの一つとして猫の地図に加わります。
同じ部屋にいるあいだは、大人が目を離さないでおきましょう。猫に悪気がなくても、赤ちゃんはまだ自分で身をよじって逃げることができません。
猫の予定を先に押さえれば、猫があとまわしにならない
授乳と寝かしつけは、これから毎日決まった回数だけ繰り返されます。そこへ猫のごはんや遊びの時間が重なると、猫は毎回あとまわしにされる側になってしまいます。先に猫の時間を1日2回、5分ずつでも固定してしまえば、赤ちゃんの世話と取り合いになりません。
猫が落ち着いていられるのは、次に何が起きるかを自分で見通せて、しかも選べるときです。ごはんの時間、遊びの時間、寝る場所。この3つが変わらなければ、家の中がどれだけ賑やかになっても猫は自分のペースを保てるはずです。
よくある困りごとは、家のどこを変えると収まるか
ここからは、赤ちゃんと猫の暮らしで起きやすい5つの場面を見ていきます。どれも猫の行動をやめさせるのではなく、家の側を先に変える方向で対処すると収まりやすくなります。
ベビーベッドに乗るなら、同じ高さに猫の寝床を作ろう
ベビーベッドは、猫にとって条件のそろった寝場所です。床から離れていて、柵に囲まれていて、やわらかい寝具があって暖かい。猫が赤ちゃんを狙っているわけではなく、家の中でいちばん気持ちのいい場所を選んだ結果にすぎません。
だからこそ先回りして、同じくらいの高さに猫の寝床を用意します。窓の外が見えて日が当たる場所なら、そちらのほうが猫には魅力的です。あわせて、赤ちゃんが来る前からベッドの中を寝床にする習慣をつけさせないことも大切です。ベビーベッドを置く部屋のドアを閉めておく、猫が居座れる場所を作らないようにしておく、そして猫が入ってしまったら叱らずに別の寝床へ促す。この3つで足ります。
猫よけをうたうネットやカバーをベビーベッドに取り付ける方法は、猫がその上に乗ってしまい、たわんだときに赤ちゃんの側が危険になるため使わないでください。
猫が乗らないようにとクッションや枕をベビーベッドに置くのも避けてください。1歳になるまではあおむけで寝かせ、まわりには何も置かずシンプルに整えるほうが安全です。猫への対策は、寝床の外側で行いましょう。
威嚇が出る場面には、逃げ道がない
シャーという声は、猫が距離を取りたいと伝えている合図です。猫はまず避けたり隠れたりして距離を取り、どうしても逃げられないときに最後の手段として攻撃へ移ります。つまり威嚇が出たときは、部屋の隅、行き止まりの廊下、抱っこといった、猫が引き返せない条件がそろっていることが多いのです。
見直すのは猫の性格ではなく、家の動線です。ドアを開けておく、廊下に荷物を積まない、高い場所へ上がるルートを空けておく。逃げ道が1本増えるだけで、威嚇まで行かずに済む場面が増えます。
シャーやウーという鳴き声が相手によってどう変わるかは、こちらでくわしく解説しました。

隠れて出てこないなら、ごはんと水を隠れ場所の近くへ移そう
隠れることは、猫が自分を守るためにとる対処のしかたです。無理に引きずり出すとその場所まで安全ではなくなってしまうので、隠れ場所そのものは残しておきます。そのかわり、ごはんと水とトイレを隠れ場所の近くへ移して、出てこなくても生活が回るようにしてあげましょう。
家の中が静かな時間に、そっと様子を見にいくくらいで十分です。まる1日食べていない、水を飲んでいない、排泄した跡がない、または何度もトイレへ行くのに出ていないという場合は話が別なので、早めに動物病院へ連れていってください。
夜泣きの時期は、猫の寝床を別の部屋へ
夜中の泣き声は、猫にとって聞き慣れない大きな音です。これまで寝室で一緒に寝ていた猫が、夜だけそわそわと歩き回るようになったら、寝床を別の部屋へ移すことを検討しましょう。
移すタイミングは、できれば赤ちゃんが来る前です。急に寝室から締め出すと、猫は泣き声ではなく締め出されたことのほうに反応してしまいます。夜のあいだも猫が水とトイレへ行けるよう、通り道のドアは開けておくか、猫が通れる幅で止めておきましょう。
抜け毛が気になるなら、掃除より先にブラッシングを増やそう
赤ちゃんの寝具や洗濯物についた毛が気になり始めたら、床を掃除する回数より先にブラッシングの回数を見直すほうが効きます。抜ける前の毛を手元で取ってしまえば、部屋に散る量そのものが減るからです。ノミや寄生虫の予防をかかりつけの動物病院で続けておくと、赤ちゃんの側の心配も減ります。掃除もこまめに続けたいところ。
洗濯物と赤ちゃんの寝具を、猫の通り道から外れた場所にたたんで置くだけでも変わります。換毛期のケアと掃除の進め方は、こちらにまとめています。

なお、抜け毛が急に増えた、地肌が見えている、同じところをなめ続けているという場合は、季節の毛の生え替わりではなく皮膚の不調やストレスが隠れていることがあります。この場合は動物病院で診てもらってください。
| 困りごと | まず変えるところ | 続くときは |
|---|---|---|
| ベビーベッドに乗る | 同じ高さに猫の寝床を新設 | ベビーベッドのある部屋のドアを閉める |
| 赤ちゃんに威嚇する | 逃げ道と高い場所を空ける | 数週間続くなら動物病院へ |
| 隠れて出てこない | ごはんと水を隠れ場所の近くへ | まる1日食べないなら受診 |
| 夜に落ち着かない | 猫の寝床を寝室から別室へ | 粗相が続くようなら受診 |
| 抜け毛が増える | ブラッシングの回数を増やす | 地肌が見えるなら受診 |
迷ったときは、猫と赤ちゃんで相談先を分けよう
猫の食欲、排泄、毛づくろい、鳴き方に変化が出て数日以上続くようなら、かかりつけの動物病院に相談しましょう。環境の変化がきっかけに見えても、体調のほうに原因が重なっていることがあります。
このうち、トイレに何度も行くのに尿が出ていない、排尿のときに鳴く、尿に血が混じるという様子があれば、時間をおかずにその日のうちに動物病院へ連絡してください。猫の泌尿器に不調があるときは、排尿の回数が増えて1回の量が減るという変化が起きます。環境が大きく変わったあとは、こうしたサインにも目を向けておきたいところ。
赤ちゃんの側に湿疹や咳、鼻づまりが続くときは、小児科で相談してください。動物の毛やふけにアレルギー反応が出ることはありますが、原因を猫だと決めてしまう前に医師の判断をあおぐほうが確実です。猫との暮らしをどうするか決めるのは、そのあとで十分間に合います。赤ちゃんと猫が同じ家で暮らしている家庭はたくさんあります。
よくある質問
- Q赤ちゃんが来る前に、猫の爪は切っておいたほうがいいですか?
- A
切るのは、先端の白くとがった部分だけです。根元のピンク色の部分には触れないようにしてください。定期的に整えておけば、猫が飛び降りたときや遊びの延長で人に触れたときに傷になりにくくなります。とはいえ爪とぎ自体は猫の習性なので、やめさせようとせず専用の爪とぎを用意してください。産後は爪切りが後回しになりがちなので、出産前に一度切っておき、動物病院でやってもらう選択肢も含めて家族で決めておくと続けやすくなります。
- Q産後しばらく、猫を実家や知人に預けたほうがいいですか?
- A
住み慣れた家から移ること自体が、猫にとっては大きな環境の変化になります。家に残したまま区画を分けるほうが猫の負担は小さいので、まずはこの記事の区画分けを試してみてください。里帰り出産などで預けるほかない場合は、使っている寝床やトイレを一緒に持っていき、預け先でも同じものを使えるようにしておくと落ち着きやすくなります。
まとめ
赤ちゃんと猫の暮らしは、猫に新しいしつけを覚えさせることではなく、家の区画を決めることでほとんど決まります。猫だけの高い居場所を残し、トイレとごはんを押し出さず、においと音を赤ちゃんより先に家へ入れておく。この3つを退院前に済ませておけば、当日はふだんどおりの一日を過ごすだけで足ります。
- 赤ちゃんの手が届かない高さに、猫の居場所を1か所つくる
- 猫のトイレ・水・ごはんの置き場所を、動かすなら今のうちに動かす
- ベビー用品を設置し、泣き声と家電の音を一度鳴らしておく
- ベビーベッドを置く部屋のドアを閉める習慣をつける
- 猫のごはんとトイレ掃除の担当を家族で分ける
猫と赤ちゃんが同じ家で過ごせるようになるまでには、それなりの日数がかかります。焦らず、猫が引き返せる場所を残しておきましょう。猫のペースで、距離は少しずつ縮まっていきます。
参考にした資料
参考: 本文の内容は、次の資料にもとづいています。
- 環境省「住宅密集地における犬猫の適正飼養ガイドライン」2010年
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/h2202.pdf - こども家庭庁「赤ちゃんが安全に眠れるように」睡眠中の窒息予防
https://www.cfa.go.jp/policies/boshihoken/kenkou/sids - Ellis SLH ほか「AAFP and ISFM Feline Environmental Needs Guidelines」Journal of Feline Medicine and Surgery, 2013;15:219-230
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/1098612X13477537 - Buffington CA, Bain M「Stress and Feline Health」Veterinary Clinics of North America: Small Animal Practice, 2020;50(4) 著者最終稿
https://escholarship.org/uc/item/7zq381rp - Cats Protection「Cats and babies」
https://www.cats.org.uk/help-and-advice/cats-and-your-family/cats-and-babies - Cats Protection「Cats and your pregnancy」
https://www.cats.org.uk/help-and-advice/cats-and-your-family/cats-and-your-pregnancy
